小川さんが描いたスケッチ画。、熱帯植物のドラコンティオン

日本で見られない植物は、何度もギリシアまで見に出かけました。念願の植物に初めて出合えた時は小躍りしたくなったほど。赤紫色でビロードのような「ドラコンティオン」の大きな花を、草原で見た時も嬉しかったです。

名が示す通り「蛇(ドラコーン)」のようなまだら模様の茎から、50cmほどもにゅっと突き出す肉穂花序(にくすいかじょ)と、それを包む、大きな仏炎苞(ぶつえんほう)は、美しく印象的でした。有毒なのに、観賞用に栽培される所以です。

そんな経験を重ねるうちに、長々と説明するよりも、小さくても絵があるとわかりやすいと気づき、本にも私が描いた挿絵を入れることになりました。厳しい乾燥気候のギリシアで育つ植物は、湿潤な日本では見られないものが多いので、挿絵が読者の理解を深めてくれればと願っています。

08年に第1分冊を上梓し、25年5月に最終分冊の第3分冊をやっと上梓することができました。出版後は、多くの先学の方々、友人、知人から心のこもった感想をいただき、「終わりまでこぎつけられてよかった」と、心から思いました。

また、25年に思いがけず、『植物誌』の翻訳に対して翻訳特別賞をいただいて、翻訳の仕事を評価してもらえたのは何より嬉しくありがたいことでした。これからも古代ギリシアの科学書の翻訳をするようにと、背中を押していただいた気がしました。

「よく50年も続けられましたね」と言われるのですが、じつは植物学だけでなく、関連する分野を学ぶのに長い時間がかかったからでもありました。しかし、巻ごとに学ぶ分野が変わるので、新しいことを学ぶのは楽しく飽きません。

それに、私はもともと家でコツコツと何かに取り組むのが好きな性分。絵を描いたり、ピアノを弾いたり、本を読んだり、調べたり……。何時間でも一人で過ごすことが苦にならないのです。

テオプラストスに惚れ込んで、ひたすら『植物誌』と向き合い続けた日日は、本当に幸せな時間でした。