(写真提供:Photo AC)
野球、観劇、アイドル、VTuber、アニメなど、『推し』がいるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。文芸評論家で、2025年の『第76回NHK紅白歌合戦』ではゲスト審査員も務めた三宅香帆さんは「日本人にとって推し活はもはや一時の熱狂ではない」と語ります。そこで今回は三宅さんの著書『推したちとどう生きるか』より一部を抜粋し、「ポスト消費社会における『推しの構造』」をお届けします。

テレビからインターネットへ、「追っかけ」から「推し活」へ

インターネットからアイドルが登場する時代

「推し活」が新語・流行語大賞にノミネートされたのは2021年。コロナ禍の真っただ中だったことを覚えている。私はその時、翌朝出るTeamsの会議の時間を確認しつつ、部屋で『日向坂で会いましょう』(テレビ東京)を観ながらハーゲンダッツを食べていて、こんな時間に食べると太ることはよくわかっていてもそれでもアイドルの番組を観ながらアイスを食べる快楽を捨てられなかったのである。

その10年前の話から始めよう。2011年、BALLOOMというレーベルが発足した。

よく覚えている。私もまだ高校生の時だった。自分と年齢が変わらないくらいの人たちが活躍していることもよく知らなかったが、ここに新しいものがある、と感動した。

――いまは米津玄師として知られるハチ、古川本舗、wowakaなどがボーカロイド楽曲を提供するレーベルのことだった。

そして2011年とは、AKB48が「フライングゲット」で日本レコード大賞を受賞した年でもあった。ぼろぼろ泣きながら受賞を祝う紙吹雪の降る中で踊るあっちゃんは、マスカラが頬にちょっと落ちていて、そこもまたなんとも言えず可愛いなあと思った。

Google ChromeのCMに、レディー・ガガやジャスティン・ビーバーとともに、初音ミクが起用された年でもある。このCMを手がけたクリエイティブディレクターの本山敬一氏は以下のように述べる。

日本のウェブ文化は、沢山の人が作るカルチャーであって、特定の個人の文化じゃないんだなっていうことに気づいたんです。だから、点で探してもなかなか見えてこない。点じゃなくてむしろそれが沢山繋がった線の集合のようなものをテーマにしないと、日本のウェブの可能性みたいなものは描けないということがわかった。そこで、N次創作の象徴としての初音ミクを起用しようということが決まったんです。
(柴那典『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』太田出版、2014年)

東日本大震災が発生した年でもあった。私は高知にいて、ひとまずはやく帰れという放送を図書室で聞いた。翌日、母が青ざめながらテレビを見ていた。原発事故が起こったからだ。――うっすら覚えているのは、ネットで著名人がすごい批判合戦を繰り広げているテキストを読んだことだ。