古代エジプトにおいて猫は神であった。しかし、古代ローマではそんなこともなく……。2匹の猫と暮らすマリさんが、愛猫を見ながら考えたことは。(文・写真=ヤマザキマリ)
古代エジプトでは
私が今生活をともにしている2匹の猫は、先代の人嫌いでプライドの高いベンガル猫とは違い、驚くほど人懐っこく、早朝にお腹が空くと私の枕元までやってきて、爪を引っ込めたままの前足をそっと爆睡している主人の頬に乗せる。
彼らの思惑通り、やわらかい肉球の感触で促される目覚めは、オキシトシンの分泌により至福の極みだ。彼らは主人を苛立たせないことが、自分たちの遺伝子が受け継がれるかどうかに関わることを熟知しているようである。
古代エジプトにおいて猫は「バステト」という神であった。我々日本人は感動をもたらすものに何でも「神」という言葉を簡単に使うが、そういうレベルの神ではない。正真正銘の、完璧な敬いの対象である。
人間が生きるために必要不可欠な穀類をネズミから守り、子だくさんなうえに全身全霊をかけた子育てはまさに繁栄と母性の鑑であり、しかも滑らかな肢体を覆うやわらかい毛といい、誇り高くも時折見せる愛らしい仕草といい、エジプト人たちは猫を自分たち人間には到底敵わない圧倒的な存在として崇拝していた。

