神扱いも悪魔扱いもすべては人間の勝手です

ところが、エジプトがローマの属州に取り込まれると、いきなり猫神ブームが到来。初代皇帝アウグストゥス夫妻も猫のツンデレぶりに惚れ、海軍は猫を穀倉番長として船に乗せて長旅をするようになる。

その後の大航海時代も長期間の船旅において猫は重宝され、現在世界のどこに行っても猫がいるのは、そうした船から逃げ出した猫たちが繁殖したためでもある。

ただ、戦争が続いたり経済が停滞するなど社会情勢が暗澹(あんたん)とし始めると、それまで好意的に捉えられていた猫の神秘性は、悪の使いや邪道な生き物とされるようになる。

厄病神とされながらも、疫病が広がると、媒介元のネズミを退治する猫は素晴らしい、と手のひらを返す。猫ほど、人間の社会と身勝手さに翻弄された生き物はいないだろう。

神扱いを受けてきながら厄介視されるといえば熊もそうだが、彼らの世界では人知れず「人間界では今度から俺たち神じゃなくて、駆除対象の厄介者の扱いになったらしいぞ」「うそ、まじで!?」などという情報が行き交っていたりするのかもしれない。

【関連記事】
日本とイタリア両国で生きるヤマザキマリが<特に困っていること>とは?古代ローマ時代から続く<イタリア人の会話の特徴>
ゴシップが日本ほど影響力を持たないイタリア。ヤマザキマリが考える「偶像」文化論
ヤマザキマリが貧乏学生時代に体験したキューバでの労働奉仕とホームステイ。15人家族をまとめる母・セリアとの思い出

歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!