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一生の不覚

ところが先日、そうはいえないことをやらかしてしまった。外出先からの帰り、トイレに行きたくなったので、うちの最寄り駅に併設してあるショッピングモールのトイレに入ろうとした。今までは午前中に比較的回数を多めにトイレに行く体質だったが、還暦を過ぎた頃から、トイレがとても近くなった。

それも若い頃は我慢できたのに、その我慢をするのが難しくなってきた。突然、尿意に襲われ、そしてすぐにトイレに行きたくなる。時間の猶予が短くなってきたのである。私よりもひとまわり年下の人が、それが怖いのでいつもパッドを使っていると聞いて、内心、

(ええっ)

とびっくりしたのだが、そういうものにはお世話になっていないので、体質的に他の人に比べてまだ猶予があるほうなのか。子どもを産んだ人とそうでない人の差もあるかもしれない。

ショッピングモールのそのトイレに入るのははじめてだったが、以前、左側の入り口から女性が出てきたのを見たことがあったので、迷うことなく左側の入り口から中に入っていった。とてもきれいなトイレで中には誰もおらず、個室もあるものの男性トイレの小便器が並んでいた。私は中で立ち止まり、

(お母さんが男児を連れて入ったときのためなのかな。それにしても数が多いな)

としばし呆然とした直後、ここは男性用トイレだと気がついたのである。あわてて踵(きびす)を返したら、目の前に若い男性が現れた。

「うわあ」

と叫んで飛び退いたのは彼だった。ギターケースを背負っていたので、バンドをやっているらしい。私もあわてて、

「ごめんなさい、間違えちゃったの」

と謝ると、彼は、

「ああ」

とにっこり笑ってほっとした顔をした。

「驚かせてごめんなさい」

そういいながら後ろを振り返らずに、早足で右側の入り口のトイレに入った。そこは間違いなく女性用トイレだった。小便器はなかった。

まさか自分が間違えて男性用トイレに入るなんてと、情けなくて仕方がなかった。若い男性を驚かせてしまったのも申し訳なかった。