「ただの石」を通じて国家機密を受信!?

この古典技術と最新技術が融合した有名な事件が、2006年の「スパイ・ロック事件」だ。

ロシア連邦保安庁(FSB)は、モスクワ市内の植え込みに置かれていた「不自然な石」を発見した。見た目はどこにでもある石だが、なんとその内部に精巧な電子機器が埋め込まれていたのである。

仕組みは巧妙だった。ロシア人エージェントは石の近くを通り過ぎる際に、携帯端末から無線で機密データを送信する。数日後、外交官の身分を持つMI6のオフィサーが同じ場所を通り、保存されたデータを回収する。互いに顔を合わせる必要は一切ない。

当時、イギリス政府は事件への関与を認めなかった。しかし2012年、事件当時にブレア首相の首席補佐官を務めていたジョナサン・パウエルが、BBCの取材に対してスパイ・ロックが本物だったと認め、世界を驚かせた。

もちろん、古書店主や会社員など第三者を仲介役(カット・アウト)として利用する伝統的な方法も存在する。しかし、人間を介さず、直接接触も不要なデッド・ドロップは、防諜の観点から見れば今なお極めて合理的な手法だ。

どれほど衛星やAIが発達した時代になっても、情報戦の最前線では、「石の下に物を隠す」という何百年も変わらない知恵が生きつづけているのである。

※本稿は、『面白すぎて時間を忘れる「スパイ」の世界: 実在のスパイから世界の秘密工作まで』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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