「どうしてあんなミスをしたのだろう」「なんで間違えたのだろう」…そんな「思いもしないミス」をした経験があるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。北九州市立大学特任教授・名誉教授であり、認知心理学を専攻されている松尾太加志先生は「人は、必ず間違いをしてしまう。人による間違いをヒューマンエラーという」と語ります。そこで今回は松尾先生の著書『ミスによる事故をどう防ぐか-4種のヒューマンエラーと組織の安全文化』より、一部を抜粋してお届けします。
人間はトップダウン的に判断する
人間は、見間違ったり聞き間違ったりすることがあるが、その点を考えてみたい。人の知覚の処理のプロセスは、目や耳などを通して得た刺激から外界を知覚していると単純に考えてしまいがちである。この考えのどこがいけないのかと思ってしまうだろう。
そのためには、人間の情報処理のボトムアップとトップダウンについての理解が必要となる。ボトムアップとは、視覚・聴覚でいえば処理が「外界→目・耳→見えたもの・聞こえたもの」という流れであり、最初に述べた考え方はボトムアップである。
このボトムアップの考え方による表現に間違いはないのだが、誤解を恐れずに極端な言い方をすれば、目や耳を通して得た情報は、自分が見たい、あるいは聞きたいという情報を裏付けるために使われているにすぎない。
人間は外界を知覚するさいに、自分が持っている知識や情報、そのときの文脈などを使っている。それらを活用して、何が見えるのか、何が聞こえるのかということを前提にして外界を知覚している。これがトップダウンである。脳をトップと考え、「脳→知識・文脈→見えたもの・聞こえたもの」という流れである。そしてその前提が正しいかどうか知るために目や耳からの感覚器官を通した情報を使っている(ここの流れはボトムアップ)。
人間の知覚では錯覚が生じることが少なくない。生理的な機構による場合もあるが、トップダウン的な判断が錯覚を生む場合もある。たとえば、写真の中に人がいないはずなのに、人の顔が写っているかのように思ってしまうことがある。ごちゃごちゃした中からある部分を目、鼻、口といった人の顔のパーツだとトップダウン的に見立てて、顔と認識してしまうからである。