構えや期待がトップダウン的に
1999年に患者を取り違えて手術をしてしまった事故が発生した(1)。看護師や医師が、患者に対して名前を呼ぶ場面が何度もあったのだが、間違って別の人の名前が呼ばれているのに、患者はそれを否定することはなかった。そのため患者の取り違えに気づかなかった。
患者には自分の名前が呼ばれるという構えがあり、音声は曖昧にしか聞こえないこともあるので、自分の名前が呼ばれたと思い込んでしまう。
私たちも病院の窓口で呼ばれるのを待っているときは、次は自分の番ではないかという期待があるため、違う人の名前が呼ばれても自分の名前が呼ばれたと勘違いしてしまうことがある。とくに病院などでは待ち時間が長く、早くしてほしいという思いもあるため、よりいっそうトップダウン的に自分の名前が呼ばれたと思ってしまう。
筆者が人間ドックの健診に行ったとき、整理券の番号が「11」だった。「じゅういちばんの方」と受付の方が言われたので立ち上がったら、先に別の方が受付をしようとされた。その方は「17」だった。自分が呼ばれるという期待があったため「じゅういち」が「じゅうしち」と聞こえたのだろう。
このように構えや期待によりトップダウン的に知覚してしまう。そのため、誤った認識、つまり誤認識エラーを起こしてしまう。
(1)松尾太加志(2024).『間違い学――「ゼロリスク」と「レジリエンス」』新潮新書