「どうしてあんなミスをしたのだろう」「なんで間違えたのだろう」…そんな「思いもしないミス」をした経験があるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。北九州市立大学特任教授・名誉教授であり、認知心理学を専攻されている松尾太加志先生は「人は、必ず間違いをしてしまう。人による間違いをヒューマンエラーという」と語ります。そこで今回は松尾先生の著書『ミスによる事故をどう防ぐか-4種のヒューマンエラーと組織の安全文化』より、一部を抜粋してお届けします。
安全策が守られなかった触車事故――事例
「よけろ!」。叫んだときにはもう遅かった。電車が20m前まで接近していた。保線作業をおこなっていた6人は懸命に逃げた。
しかし、ひとりだけ逃げ遅れ電車にはねられてしまった。救急車で搬送され、重体だったが病院で亡くなった。まだ19歳の若い作業員であった。
保線作業は鉄道の運行時間帯におこなうこともある。そのさい、事故が起きないようにどの鉄道会社でも事故防止要領を定めている。
もちろん、この会社でも触車事故防止要領が定めてあった。しかし、それが守られていないようだった。運輸安全委員会による事故報告書が事故の2年後に公表されている(1)。その報告書から次のようなことが明らかになっている。
(1)運輸安全委員会(鉄道部会)(2025).「鉄道事故調査報告書」https://jtsb.mlit.go.jp/railway/rep-acci/RA2025-2-2. pdf(富山地方鉄道株式会社 越中三郷駅~越中荏原駅間 鉄道人身障害事故)