20代の頃、海外にて(写真提供:野村さん)

父と同じ過ちを犯して……

ところが30代半ば、僕の人生に第二次氷河期が訪れます。中途半端な年齢に差し掛かり、ニーズが減ってしまったんですね。仕事のオファーが激減しました。かといって自分がどう変わるべきかもわからず、俳優として停滞期を迎えたのです。

こうなると、自宅の50畳のリビングにかかる冷暖房代なども気になり始めます。光熱費だけで月10万円くらい払っていましたからね。

さらに、大きな間違いも犯しました。親しくしていた複数の友人に、トータル8000万円ほどのお金を貸してしまったのです。ある日、それまで散々ご馳走してくれていた友人から、不動産を買うという名目で「月末には返すから」と言われました。友達が困っているのだし、銀行にお金があるのだからということで、僕は5000万円を渡してしまった。

これを皮切りに、遊び仲間から事業を始めるのでと持ち掛けられて1000万円、経営するカフェの運営資金が足りないと泣きつかれて、ポンと1500万円……。彼らとは昨日や今日のつきあいではありませんでした。だからこそ信頼して貸したわけですが、その後はことごとく音信不通に。いまだに一銭も返してもらっていません。

僕は四の五の言わずに貸すのが男らしい行為だと思っていたし、ケチな男だと思われたくなくて、「貸した金を返してくれ」と催促することもしなかった。本当に馬鹿でした。当時、すでに結婚していて、子どもも2人いたのに、父と同じ過ちを犯してしまうなんて。しかもこんなお金の悩みを人に打ち明けるなど、当時の僕には考えられなかった。プライドが邪魔をして、人に助けを求めることができずにいたのです。

友人に1000万円借りたことも

「一言相談してほしかった」と訴える妻とは、当然のごとく喧嘩が絶えず、険悪に。プライベートも仕事も八方塞がりだった30代後半が一番苦しかったかな。子どもの学費を払うため、恥をしのんで友人に1000万円借りたこともあります。44歳の頃には、生活のために友人が経営する中古車販売店でバイトもしました。俺は何をやっているんだろう、とか思いながら……。

そりゃ、貸したお金のことを考えない日などありませんでした。次第にそのことばかりが頭の中を占めて、自分がおかしくなりそうだった。だから、いつからか、もうお金のことを考えるのはやめようと決めました。

月々の家のローンの返済もつらくなって、返済額を減らしてもらうなど手を尽くしたこともありました。そしてかなり迷いましたが、家を売却することに決めたのです。2011年のことです。

同じ頃、妻とも離婚が決まりました。子どもたちには申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、別れる家族が暮らしていけるようにお金を渡し、家も手放して、借金もなくなった。すると気持ちが楽になって、気づいたらもう一度、役者として頑張ってみようかなという気力を取り戻していたのです。