神尾真由子 J・S・バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ全曲 ソニー 3000円

一人の時間に寄り添ってくれる

自宅で過ごす時間が増えた今日この頃。家での静かな時間に、J・S・バッハ、それも、演奏家がたった一人、ヴァイオリンという旋律楽器で壮大な宇宙を描き上げる無伴奏作品はよく似合う。

神尾真由子の演奏するJ・S・バッハ《無伴奏ヴァイオリン・パルティータ全曲》は、絶妙な距離感で一人の時間に寄り添ってくれる。神尾は10歳でデビューし、ティーンエイジャーの頃から舞台に立つ。2007年チャイコフスキー国際コンクールのヴァイオリン部門で第1位に輝き、のちに、同コンクールピアノ部門最高位のミロスラフ・クルティシェフと公私ともにパートナーとなった。

コロナ禍で、神尾も予定していた多くの公演が中止や延期となった。しかし、子育てをしながら第一線で演奏活動を続けてきた彼女にとって、この状況については「忙しいところから通常の暮らしに戻ることができて、ほっとしたのが正直なところ」だという。

録音が行われたのは、緊急事態宣言が解除され、クラシック界では手探りで公演が再開され始めた6 月末のこと。自粛で時間ができたことにより、いつもよりじっくり作品に向き合えたと振り返る。

研ぎ澄まされた音で立体的に編まれてゆく演奏からは、その成果が伝わってくる。表情豊かで起伏に富んでいるが、常に冷静だ。技巧が優れていることは言うまでもない。パルティータの中で最も有名な第2番終曲の〈シャコンヌ〉も、音楽の感情をコントロールしながら、ゴージャスな場面もどこか静謐さを感じさせる表現で聴かせる。

バロック彫刻の細部に光を当ててはっきりと見せてくれるような、クリアで清々しい録音だ。

神尾真由子
J・S・バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ全曲
ソニー 3000円