希覯本コレクターのカラフルで奥深い世界
というわけで、この本はミステリー・ファンにも、そして本好きの人たちにも、また本格的なブック・コレクターの人たちにも、たっぷり楽しんでいただけるのではないかと思う。僕自身のことを言えば、もちろん本好きではあるけれど、希覯本みたいなものにはあまり興味が持てない。本なんて初版だろうが、サイン入りだろうが、なんだろうが、ページがきちんと揃っていればそれでいいだろうと思っているような人間だ。本を蒐集することにもとくに関心がない。読み終えたら多くの本は処分してしまう。でもそういう普通の(かなりいい加減な)読書人にとっても、本書に描かれている希覯本コレクターのカラフルで奥深い世界は、ずいぶん興味深いものだった。
僕は昔からジャズ・レコードのコレクションをしているので、LPレコードに関してはオリジナル盤(ファーストプレス)かどうか、盤質がどうか、ジャケットに傷がないか、どれくらい珍しいか、そういうことにはかなり深く関心を払っている。中身の音楽さえちゃんと聴ければ、そんな周辺的あれこれなんてべつにどうでもいいようなことなんだけど、コレクターとしてはついつい「かたち」にこだわってしまう。そして少しでも程度の良好なブツを求めて、せっせと中古屋を渉(わた)り歩くことになる。だからブルースを初めとする、希覯本蒐集家たちの気持ちも決してわからないではない。結局のところ人生なんて、時間をどのように無駄に費やしていくかという過程の集積に過ぎないのだから。
本書の内容について細かく書くと「ネタバレ」になってしまいそうだから、これ以上は明らかにはしない。いずれにせよ一度読み出したら、ページを繰る手が止まらなくなってくるはずだ―と推測する。少なくとも僕はそうだった。