「グリシャムのことはもうだいたいわかった、とあなたが思ったそのとき、彼はあなたを驚かせる」というのが本書の惹句(じゃっく)だが、これは決して誇大広告ではない。本書においてグリシャムは、いつもとは違う種類の新鮮なパンチを―それもコンパクトで強力なパンチを―次々に繰り出している。弁護士の出てこないグリシャムのミステリーを、じっくり楽しんでいただきたい。
ちなみに本書はアメリカ本国の読者にかなり好意的に受け入れられたようで、彼は最近になって続編の “Camino Winds” を刊行した。書店主ブルース・ケーブルが主人公として活躍するミステリーで、途中でマーサーも顔を出す。カミーノ・アイランドを巨大ハリケーンが襲い、島は大きな打撃を受ける。そのどさくさに紛れて一人の在住作家が殺害され……という展開だが、こちらも中央公論新社から翻訳刊行されることになっているので、どうかご期待ください。
『「グレート・ギャツビー」を追え』というタイトルは、なんだかクライブ・カッスラーの「ダーク・ピット」シリーズのタイトルを借用したみたいで、僕としては少しばかり気恥ずかしいのだが、どのように知恵を絞っても、これ以外のものを思いつけなかった。ご笑納いただければ幸甚です。
二〇二〇年九月 村上春樹