葵の内面も変わっているんですよ。連載時は混乱したり迷ったりする姿が多かったのですが、改稿を重ねるうちに、「彼女はもう少し強いのかもしれない」と感じて。これまで私が書いてきた女性主人公が黙ってしまう場面でも、葵はハッキリものを言います。(笑)
この変化は、私が年齢を重ねたせいかもしれません。「恋愛してもしなくてもいい」という結論に辿り着いたのも、予想していなかったことです。主人公がたくさん恋をするはずが、いらないものをどんどん捨てていく話だったのかと、書いていくうちに気づきました。20代まではたくさん持てば充たされる気がしたけど、必要と思い込んでいたものを手放すほうが、ずっと自由で柔軟になる。30代の私は、そう考えるようになっていたんです。
もともとお酒を飲みに行くことも好きでしたから、葵の店の設定を考えるのは楽しかったですね。最初に「自然派の白ワインにこだわる店」と決めて、ワイナリーやワインバーを経営される方たちに取材をしました。自然派のワインって、造り手も扱う飲食店の方も愛情やこだわりが強くて、お話を聞けば聞くほど面白い。取材を口実に買ったボトルワインが、仕事場に何本もあります(笑)。仕事終わりにさっとおつまみを作って飲んだりしますが、この作品を執筆している間は酒量が増えてしまって。飲んだ量をアプリで管理して、飲みすぎないように気をつけています。
わが家には小学生の息子がいるので、コロナ禍で学校も学童保育も休みになった時期は、1日3食作るのが本当に大変で......。でも、家族3人でこんなに長く一緒に過ごすことはもうないだろうと思うと、貴重で嬉しい時間でもありました。さまざまな意味で、忘れられない一冊になったと思います。