「コロナ感染者が出てないから、絶対に帰って来るな」
「家がつぶれてしまわないか心配です。変な具合に倒れでもしたら、周囲の家に多大な迷惑をかけるのは必至。大工さんにお願いして、家の中の点検もしたいのですが、叔母の手前言いづらく、気分を害され頼んだ人と喧嘩にでもなったら、と考えると行動に移せない。とにかく頑固で、解決策がみつかりません」
施設にいる母に相談しようにも、年相応に記憶がまだらになっている。携帯電話で話すのが唯一の交流なのだが、日に15回も電話してくるときもあれば、1週間電話がないときもあり、どこまで理解できているのかわからない。
叔母からは「うちの町では、コロナ感染者がまだ一人も出ていないのだから、絶対に帰って来るな」というお達しがあったほどで、中村さんは帰郷を望まれていない。
「叔母は怒るでしょうが、実家に行こうと考えました。行けば、風通しも掃除も洗濯もでき、家の傷み具合も見られる。しかし私が東京から来たとなれば、町は大騒ぎになり、叔母にも迷惑がかかる。自分が感染していないという保証はないので、決心がつきません」
職場からは大人数の会食禁止を言い渡され、それを守っているが、中村さんの心は揺れている。