ナポレオンの権力を象徴した飼育舎

ところが、革命と戦争のどさくさで軍人ナポレオン・ボナパルト(1769~1821)が実権を握ると、ふたたび変化がおとずれる。モリノの手で新たにドーム型の飼育舎(ロタンダ)がデザインされたのだが、それはレジオン・ド・ヌール勲章の輪郭をベースにした、幾何学的でどっしりしたものだった。

ジャルダン・デ・プラントの「ロタンダ」

これは明らかにナポレオンの権力を象徴している。ヴェルサイユ・メナジェリーのパビリオンが、戦闘的な装いをまとって再来したものといえよう。なおこの建物は、本来は肉食動物のためにつくられたそうだが、結局ゾウの飼育舎になった(Baratay 2000, Graczyk 2008,  Kisling 2001, Meuser 2018, Osborne 1996)。

早い話が、ジャルダン・デ・プラントは、設立目的こそ学問的だったかもしれないが、動物の収集や展示のやりかたは古代ギリシア・ローマ人のように所有者の富や権力をアピールするための施設だったのである。


人間の野望が渦巻く「夢の世界」へようこそ

動物園は、18世紀末のヨーロッパに誕生した。しかし珍種を集めて展示する「動物コレクション」は、メソポタミア文明に遡るほどの歴史をもつ。近代に入ると、西洋列強は動物を競って収集。動物といっしょに「未開人」まで展示し人気を集めた。果ては「恐竜」の捕獲や絶滅動物の復元計画も登場。異国風建築から、パノラマ、サファリ・パークやテーマ・ズー、ランドスケープ・イマージョンまでのデザインの変遷をたどりながら、動物園全史と驚異の冒険譚を描き出す。