「歌を発表する場に恵まれたことに感謝しつつ、観客ゼロのライブが永遠に続くなんて絶対に嫌だと思った」(撮影:宅間國博)
ロックバンド・エレファントカシマシと並行して、2019年からソロ活動を始めた宮本浩次さん。今年、コンサートツアーが中止になるなど、コロナの打撃を受けながらも音楽と真摯に向き合う毎日を過ごしたと言います(構成=丸山あかね 撮影=宅間國博)

インスタ、生配信……発信方法を模索しながら

2020年の1月に『婦人公論』の取材を受けた時は、3月13日から予定していた、ソロ初となるはずだったコンサートツアーが、新型コロナウイルスによって中止になるなんて考えてもいませんでした。

コロナという外的要因で中止になってしまったのは実に残念でした。でも、つらいのは自分だけじゃないのだからと、早い段階で現実を受け入れ、かくなるうえは自粛生活のなかでできることに集中しようと気持ちを切り替えていたんです。

インスタグラムに初めて《うた動画》をアップしたのは3月3日のことでした。3月にリリースしたファースト・ソロアルバム『宮本、独歩。』の収録曲を毎日1曲ずつ弾き語りするという企画は、いつも応援してくれているファンに向けてできることはないかなと考えた末に思いついたことで。その後、4月中旬からは写真や手書きの文章を日記のように毎日アップし続けました。

そして、54歳を迎えた6月12日には、弾き語りライブを生配信したんです。場所はいつも楽曲作りやバンドの練習をしている、防音設備完備の狭い作業場。収録スタッフが設置してくれた25台のカメラに囲まれて、たった一人で歌うというシュールな体験でした。

「みんないい顔してるぜ、まったく見えないけど!」ってカメラに向かって呼びかけたりして(笑)。私は歌を発表する場に恵まれたことに感謝しつつ、観客ゼロのライブが永遠に続くなんて絶対に嫌だと思った。

そんなふうに、どうにか発信する方法を模索するかたわらで、一人黙々と取り組んでいたことがありました。演歌、ポップス、フォークとジャンルも年代も異なる、いわゆる歌謡曲と呼ばれる歌を1日に最低でも1曲カバーして録音することを自分に課し、4月から実行に移していたんです。