『笑って生ききる』(著:瀬戸内寂聴/中央公論新社)

今から100年ほど前、世界中でスペイン風邪という感染症が流行しました。ちょうど私が生まれた頃、日本でも大勢の人が亡くなり、今と同じように、みんな病気に怯えて暮らしていたのです。

スペイン風邪によって恋人を亡くし、失意の時にやさしくしてくれた中国人の留学生と半ばヤケになって結婚したという日本人女性を知っています。その方とは、私が夫とともに北京で暮らしていた時にもまた出会い、いろいろ親切にしていただいたのです。とても思いやりのある旦那様との間に、かわいらしいお嬢さんが2人生まれていました。当時はそんなふうに、感染症がきっかけで、人生が変わった人がずいぶんいたものです。

人の運命というのは、どう動くかわかりません。人生の総決算は、死ぬ瞬間にしかできないのではないでしょうか。どんなに貧しい家に生まれても、チャンスを掴んで成功する人もいれば、恵まれた家庭に生まれても、辛苦を経験する人もいます。

不幸だと思ったできごとが、実は思いがけない幸福への入り口になることだってあるのですから、コロナ禍の間に暮らしを見直し、価値観を変えることで、次の道が開けるかもしれません。

 

失ったものを数え出したらきりがない

昨年10月には、夜中に寂庵の廊下で転んでしまい、けっこうひどい怪我をしました。足の先が痛むので杖をついて歩いていたら、杖が滑ってしまったのです。頭から廊下に打ちつけたので一瞬気絶して、気がつくと、全身の痛みで声も出ないほど。

朝になるのを待っていると、出勤してきたまなほが気づいてくれて助けられました。顔もぶつけたので、目の上に大きなたんこぶができ、まぶたも腫れ上がってしまい、ひどいありさまでした。それこそ、化けて出たお岩さんのようなひどい顔!

もともと、脚の血管の詰まりを治す手術を受ける予定があったのですが、転倒のために急遽入院を早めて検査を受けることに。CTを撮ってもらった結果、骨折などはしておらず、脳に異常も見られませんでした。ついでに予定していた脚の血管を拡げる手術も済ませてもらいました。