深夜、ベッドで目を閉じた途端に

当時わが家は大阪を離れ、陸の孤島といわれる田舎町で築20年の旅館を買い取り、ズブの素人でありながら経営を始めていた。私はといえば、楽しかった大阪に帰りたくて、毎晩ひとりで泣いていたものだ。

それでも、中学、高校と運動クラブに所属して仲間ができ、それなりに活躍の場を与えられたことで充実した日々を過ごしていた。

そんな生活に、「金縛り」という不思議な現象がプラスされたのだ。 

いつしか「今日は来るだろう」と予測がつくほどに、「金縛り」は定期テストの前、中、後とほぼ正確にやって来るようになっていた。

深夜、ベッドで目を閉じた途端にドアのあたりからなんともいえない生あたたかい風がスーッと入ってくる。それとともに足首を両手でガッシリとつかまれ、その力が徐々に上がってくるような感触。

恐怖で体を硬くし、しっかり目を閉じるが、人らしきその物体が私の下半身から上半身にジャンプして飛び乗り、ものすごい力で掛け布団の上から揺さぶりにかかってくるのだ。声も出ず、脂汗をかきながら、ただなされるままになるしかなかった。

暴力的に揺さぶられ続け、そのうちに胸をガシッとまれた。長い時間、胸を痛くなるほど揺さぶられ、そのとてつもない力でベッドから体が飛び出しそうに。脂汗をかきながらも「時間が経てば必ずおさまる」と、きつく目を閉じ、声をあげないように唇をかみしめる。

やがて恐怖と我慢の時間は去り、それと同時に泥のように眠ってしまうのが常だった。