このままでは、ずっと付きまとわれる

「金縛り」はその後もたびたびやってきては、激しさを増していった。

どうすればよいかわからず、部屋を替えて寝てみることにした。旅館なので部屋はいくらでもあったため、食事処の大広間を選んだ。明るくて人の出入りも多いところなので、さすがにここで金縛りはないだろうと思い、眠りについた。

しかし、その考えは甘かった。

しっかり閉めたはずのドアのわずかな隙間から、例の生あたたかい風がスーッと入ってきたかと思うと、その瞬間、私の体の自由は奪われた。両足が重りをつけられたようになり、強度の揺さぶりが始まる。有無を言わせない力。部屋を替えてもダメか! 恐怖と無力感で、はじめて涙が溢れてきた。

このままでは、ずっと付きまとわれてしまう。そう確信した私は、持ち前の負けん気で「金縛りの正体を見てやる!」と覚悟を決め、「くそったれ!」と心で叫び、目を開けた。なんとそこには全身真っ黒の、ヨーロッパ映画でよく見る「サタン(悪魔)」の姿があったのだ。

サタンの口は耳まで裂け、私のすべてを見透かすように、声を出さずに笑っている。
「こいつ、笑ってる!」。恐怖と涙と脂汗でグズグズになった私は、力を振り絞って布団を思いきりかぶり、震えていた。サタンの揺さぶりはしばらく続いたが、いつの間にか私は眠りに落ちていたようだ。