サタンのことを忘れかけたある日
朝起きると、黒っぽい円形のシミが天井にあることに気がついた。それにしても、《日本旅館》になぜ《西洋のサタン》がいたのか……不思議でならない。
サタンはその後、ぱったりと現れなくなった。
私は大学入学とともに実家を離れ、学生寮で暮らすことに。先輩たちから押しつけられた日当たりの悪い、雨漏りがする部屋だったが、ひとり暮らしの自由を楽しんでいた。そのため、「サタン」のことを思い出すこともなくなっていたのだ。
しかし、春の嵐が吹き荒れる大雨の日のこと。クラブ活動の練習疲れから爆睡していた私は足元にあの圧を感じた。その瞬間、足元から下半身、上半身へと揺さぶりが始まったのだ。
「ここまで来るんや!」と、驚きとともに懐かしささえ湧き上がってくる。以前は長くてたまらなかった時間だが、アッという間のことだった。目は開けなかった。
サタンとの再会はその1回だけだ。
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