不健康なことほど尊い

キャバレーを辞めてから、フリーでピンクサロンの看板描きやエロ雑誌のイラストを描くようになって、心身の不健康を実践するかのごとく、編集者から誘いの電話があれば飛んで行って、朝まで飲み屋にいたり、新宿の町をほっつき歩いたり、アンダーグランドの映画や演劇を観たり、深夜喫茶で朝までノートに考えていることを書き殴ったりしていました。不健康なことほど尊いことだと思っていました。

出版社に入ってからさらに不健康な生活になり、寝不足が続くようになりました。仕事も忙しかったのですが、結婚していながら複数の女性と交際していて、なかなか家に帰れませんでした。ギャンブルにハマっていた頃は、週に2回は朝まで麻雀をして、そのまま寝ないで会社に行っていました。体を大事にしようなんて考えたことがなかったのですが、自分が病気になることも考えたことがありませんでした。

キノコのような雲(撮影:末井さん)

「心身の健康」を考えるようになったのはガンになってからです。初期とはいえ、いきなりガンと言われたことは本当にショックでした。それがガンではなく違う病気だったら、自分の考えを改めなかったかもしれません。それだけガンという病気は効き目がありました。

ガンになったのが58歳だったというのも良かったと思います。高齢者になる一歩手前で生活パターンを見直すことが出来たからです。

妻の美子ちゃんからよく言われるのは、ぼくは体が大きいので、もし介護が必要になった時、介護するほうは大変だろうということです。施設に入ったら「重たいわね、この人」と、みんなから嫌われるかもしれません。だから、気兼ねしながら介護のお世話になるより、介護の世話にならないことを目指しています。それには、まず足腰を鍛えることです。