わたし、病気、ですか?

先生は、英語だかドイツ語だかよくわからない筆記体のものを書いている手をとめて、
こちらを向いた。

「原因になるものをやらない、調子が悪くなる場所にいかない、ということはできますか?」
「と言いますと、たとえば、仕事に、いかない?」
「そうですね」
「うーん」
「ゆっくり、お過ごしになって」
「はい」
「原因から少し離れてみて」
「はい」
「それを、まずはしていただきたいと、思いますね」

「うーん。あの、ですね」
「はい」
「とても勝手なのかもしれませんが、できましたら仕事は休みたくは、ないんです」
「そうですか」
「ですから、できましたら、このままやっていられるような。負担の大きいものは自分で考えて、やめておきますので」
「なるほど」

「ですから、なんとか、ならないでしょうか」
「ええ」
「と、いいますか……」
「はい」
「わたし、病気、ですか?」
「病気、というか、まあ、そうですね。患者さんにとっては突然で得体の知れない、とても怖い体験なのですが、精神医学的には、どうしてこういうことが起きるのか、脳の動きがどうなっているからなのか、わかっている状態で」

先生は丁寧にお話ししてくれていたけれど、振り返ってみても、内容はあまり頭に残っていない。ただ、先生の、「大丈夫です」という感じの話しぶりに、ひとまずほっとしたのを覚えている。