私の舞台を楽しみにしてくれていた母

多忙な両親のもとで育ったおかげというのか、私は寂しさを紛らわすためにイマジネーションの世界に逃げ込みました。留守番の間はいつも一人で、鏡の前で歌ったり踊ったり演技をしたり。長じて、俳優という職業につくことができたのは幸いでした。

このことを誰よりも喜んでいたのは、お芝居が好きで、ミュージカルファン、宝塚オタクだった母。私には一言も言ってくれなかったのですが、私の舞台を観に行くことを何よりも楽しみにしていたようです。

観に来ても、母の感想は「あそこの芝居が気になった」とか厳しくて。それでいて、自分の友達には「美帆がすっごくよかったから、観に行ってくれる?」と宣伝して回っていたようです。直接言ってくれたらどんなにうれしかったか!

私が以前出した『ワガコ』というエッセイ集では、自分が母になってようやくわかったことや、母への感謝の気持ちを書きました。母のことをちゃんと書き残すのは私の役目だろうと考えて。だから母が読んだらどれだけ感動するだろう、と思っていたのですが、感想はゼロ。

ところが、『徹子の部屋』では泣きながら本の話をして、「がんばって育ててきてよかった」なんて話していて。どうしてこの人はこうなんだろう。じつはとても恥ずかしがり屋なの? と不思議で仕方ありませんでした。

そんな母が明らかに変わったのは、19年末に乳がんの手術を受けたあと。私がブログにアップしたお弁当の画像に「色味が微妙」とか「かわいくない」などと厳しかった母が、「がんばったね」「おいしそうよ」とほめてくれるように。また、先約をことわってでも、私の娘の面倒を見てくれるようになりました。

彼女のなかで何かが大きく変わったのは確かで、いつかゆっくり話を聞いてみたいなあ、と思っていた矢先だったのです、母のコロナ感染は……。

コロナ禍はまだ続いています。いま現在も症状に苦しむ方やご家族、奮闘している医療関係者がおられる。わが家のような悲しみを増やさないためにも、みなさんにはぜひ気をつけていただきたいと思っています。