大好きだったお花で埋まる和子さん(写真提供:末井さん

美子さんと結婚しようと思っているんです

和子さんと最初にあったのは、23年前になります。

ぼくが美子ちゃんと結婚することになって一番気になったことは、借金だらけのこんなオヤジを、美子ちゃんの両親が受け入れてくれるかどうかということでした。美子ちゃんに「両親に会って欲しい」と言われて、いきなり結婚相手だと言うとびっくりするので、美子ちゃんが世話になっている編集者ということにして、美子ちゃんの両親が住んでいるマンションに行き、お母さんが用意してくれた食事をみんなで食べました。

最初はみんな緊張していましたが、お酒も入り会話も弾んできた頃、お父さんがぼくに「結婚されているんですか?」と聞きました。お酒の勢いもあって「していましたけど、最近離婚したんです。それで美子さんと結婚しようと思っているんです」と言うと、一瞬シーンとなりました。

しばらくして、冗談だと思ったようでお父さんもお母さんも笑い出しましたが、僕らが笑っていないので、お母さんが真面目な顔になって、「それはどういうことですか?」と言うので、美子ちゃんが事情を話し始めると、お母さんの体がブルブル震え始めました。その時かなり焦りました。

結局、ぼくは「いい人じゃないの」ということになって、受け入れてもらったようでした。その後、両親のマンションのすぐそばに引っ越して、行ったり来たり、一緒に旅行したり、お父さんと競輪に行ったりして、親しくしてもらっていました。

お父さんが2008年の2月に亡くなった後、和子さんは一人で暮らしていましたが、部屋のなかで転んで大腿骨を骨折してから、病院、リハビリ病院、老人ホームと、共同生活する所で暮らすようになりました。どこにいてもいつも人気者だったようで、それは、独特の感性を持っていたことと、屈託がなかったからではないかと思います。

絵や写真を観たり、クラシック音楽を聴いたりするのが好きで、その感想を聞くと、本当に心で受け止めているように話してくれました。ぼくが参加しているバンド「ペーソス」のライブにも来てくれて、「楽しかったわ」と言ってくれました。