ところが帰国してしばらく経つと、またしても私は万引きに手を染めてしまうのです。当時は毎晩のように、スーパーでカゴに山盛りの食料を買っていたのですが、レジの人に「異常な量の食べ物を連日買いに来るヘンな客」と思われているんじゃないか、と不安で仕方なくて。だけど食べ物はどうしても欲しい。罪悪感はありましたが、だったらこっそり持ってきてしまえばいいという気持ちがまさっていました。

何度か万引きを繰り返しましたが、偶然、私のファンだという中学生にスーパーで声をかけられたことをきっかけに、「こんなことをしていてはいけない」と思い直し……。京セラを退社するまではしませんでした。

 

信頼していた相手に裏切られて

ーーその後、故・小出義雄監督が指導するユニバーサルエンターテインメント陸上部を経て、31歳の時、知り合いのAコーチが立ち上げた会社に入社。選手として活動しつつ市民ランナーの指導に従事する。だがAコーチが原さんを含めた周囲の人間から多額の金銭を騙し取っていたことが発覚した。


Aコーチから、新しい会社をつくるので出資してくれと言われて出したお金、遠征費用の立て替えなど、合わせると1300万円ぐらいになります。相手を信頼していたからこそ、騙されていたと知った時のショックは大きかった。

一部はなんとか取り返したものの、京セラ時代の貯金の大半を失いました。そのつらさを、私はまた食べ吐きと万引きで埋めようとしてしまったんです。

アパートに一人閉じこもり、朝から晩まで食べては吐いてを繰り返しました。もう完全に自分で自分をコントロールできず、食べ吐きと万引きでなんとか精神を保とうとしている状態です。

最初は「万引きなんて絶対にやめよう」と思っていたのに、いつの間にか「あれだけの金額を騙し取られたんだから、この程度のものを取ってもいいじゃないか」「悪いのは全部、私を騙したAコーチだ」と考えている自分がいました。

今思えば、おかしな理屈です。でも当時は受けた心の痛みを理由に、自分の行為を正当化しようとしていた。外に出れば毎回のように万引きを繰り返し、この時期だけでも都内で2回逮捕されています。

すごくつらかったけれど、こんなことは家族にも言えません。一番の相談相手だった姉にさえ話せなかった。一人で泣いて、一人で吐いて、半年ぐらいはそんなふうに過ごしていました。もしもあの時、自分の苦しい思いに耳を傾けてくれる誰かが隣にいたら、どれだけ救われただろうと思います。