女の人生には『調理定年』があっていい?(写真:『くたびれないごはんづくり』(著:婦人之友社編集部/婦人之友社)より)
2021年、89歳となる評論家の樋口恵子さん。著書を通じて、自身の満身創痍ならぬ満身疼痛の「ヨタヘロ期」をユーモラスに綴っています。中でも読者の共感を集めているのが、「調理定年」の話。どうやらその定年、多くは80歳前後にやって来るようで――。

「脱・手づくり主義」のススメ

調理定年。この言葉に思い至ったのは2017年のことでした。詳しくは『老~い、どん!』(婦人之友社刊)に書きましたが、きっかけはこの年に敢行した自宅の建て替え、引っ越しです。

若い人でもたいへんなのに、84歳の私は引っ越しを終えたあとも絶不調で、医師の診断は、「もう少しで輸血が必要になるほどのひどい貧血」。もちろん持病との兼ね合いもありますが、血液検査の詳細をつくづく眺めるに「これは栄養失調だ」と、はたと気づきました。

厚労省の最新の調査(2019年)では、65歳以上の高齢者で低栄養傾向の人は17%、85歳以上の女性では28%との情報もあります。

年齢を重ねると空腹感が減ります。しかも、わりとおいしいパンや牛乳、冷凍食品があればそれなりに充足感もある。決定的なのは、どうにも料理がおっくうで、なにもつくる気がしないのです。しかし、それでは生きるための栄養が足りるはずもありません。

そこで、これを「中流性独居型栄養失調」と名づけ、女の人生には「調理定年」があるのではないかと『明日の友』の連載に綴ったところ、多数の賛同の声。あなたもですか、ご同輩! との思いを強くしました。