「今、そしてこれから、どう生きる……?(母の)闘病から亡くなるまでの時間は、そんなことを考えさせてもくれました。」(撮影:本社写真部)
唐十郎さん主宰の劇団「状況劇場」の看板女優として人気を博し、「アングラ演劇の女王」と称された李麗仙さん。その後、テレビドラマや映画でも活躍していましたが、6月22日、肺炎により他界。79年の人生に幕を下ろした母について、息子の大鶴義丹さんが今、思うことは──(構成=福永妙子 撮影=本社写真部)

「おかん、頑張ったじゃないの」

その日の朝、母の入院先の担当医から「すぐに来てください」と電話があり、妻と駆けつけました。うちから病院までは走って約3分ほど。到着したとき、心電図モニターはすでに心肺停止を表す「ピー」の連続音が鳴った状態でした。

覚悟していたことではありました。ここ数年、体の状態は悪くなる一方で、今年に入ってからは、会話もできないレベルになっていましたから。医師からは、すでに1ヵ月半前のゴールデンウィークの頃、「ダメでしょう」と言われていました。それを思えば、「おかん、けっこう頑張ったじゃないの」というのが正直な気持ちです。

母が脳梗塞を発症したのが2018年。麻痺など後遺症はいろいろあって、リハビリを続けるも、よい兆しは見えない。母とは玄関も別々の二世帯住宅に暮らしていたのですが、この先、うちで面倒を見るのは難しいと判断。介護つき老人ホームに入所してもらうことにしたのです。

母自身も自分の体の状態に、「これはもう無理だ」と判断したのか、入所をすんなりと受け入れました。それが19年の春。脳梗塞を相次いで発症していたことは、その後のMRI検査でわかりました。やがて母の状態は坂道を転がるように悪くなり、今年初め、ホームから病院へ。そして、退院することなく逝ったのです。

約3年の闘病生活でした。その間、僕は、肉体を使った表現をずっと続けてきた母が病気によりその自由を失い、やがて亡くなるまでの過程──つまり人の体が衰え、徐々に死に向かっていくさまをずっと見続けていたわけです。

その母の姿から僕は、「生まれて、生きて、肉体だとかいろいろなものをぶっ壊しながら、こうして人の一生は閉じていくのだ」といった壮大な仕組みを教えてもらったような気がします。