富良野塾跡地の森で牧草を集める。早朝から夕方まで作業は続く(写真:『レストラン「ル ゴロワ」のレシピから-季節のごはんと暮らし方』より)
10月に放送開始から40周年を迎えるドラマ「北の国から」。一方でかつて東京・神宮前にあったフレンチの名店「ル ゴロワ」は予約の取れない人気店でしたが、「北の国から」を愛するオーナーシェフの大塚健一さんとマダムの敬子さん夫妻は北海道・富良野の森へ移住することを決意。店を閉めることになります。移住先で新生「ル ゴロワ」の開店を目指す二人でしたが、大自然を前に多くの試練が待っていて――。

新天地「富良野塾」跡地へ。森での生活が始まった

なんだろう、この包まれるような安心感は……。富良野の森を訪れた瞬間、敬子さんの心はすでに森に抱かれていた。

脚本家・倉本聰氏は1984年、この森に「富良野塾」を開いた。2010年に閉塾した後、「そのまま自然に還したい」という氏の意向で、森本来の姿に還りつつあった。塾生が住んでいた建物を修繕し、どうにか住める状態にして、夫妻が住みはじめたのが6月初めだった。

「この森に住んで最近、木の顔がわかってきたんです。どの木がどこにあるかを認識できるようになったというか」

敬子さんはそう言って笑う。木々には精霊が宿っているのかもしれない、とも。

森に住む直接のきっかけは馬だった。怪我をして処分されそうになった競走馬を9年ほど前、大塚夫妻が引き取った。当初は山梨の牧場で馬小屋のなかを仕切って部屋を作り、自分たちもそこに寝泊まりして馬の世話をした。

店の営業後に車を走らせ、昼の営業に間に合うよう東京に戻った。そんな無謀な生活で体力の限界を感じていたころ、北海道・十勝の牧場が馬を預かってくれることに。同時に、どうにかして馬と一緒に暮らしたいという気持ちが高まった。