もう母親は不要、と結論づけた

第二子を妊娠した時も、娘の肌はまったく治らず、お腹が大きくなるにつれ、今度は髪の毛が抜け始めた。「もう一生髪の毛は生えてこないかもしれない」と淡々と話し、やつれていく娘の姿を見るのは耐えきれない。私はネットで調べた東京の病院へ行くことを勧め、その場で予約を入れさせた。でも娘は予約したことを自分の夫には伝えないと言う。

私たち夫婦は相談し、夫が婿に電話をした。病院を変えてはどうかとの提案に、彼は「こちらでやりますから」の一点張り。このままでは娘が東京の病院に行かないと思った私は、彼の父親に会いに行った。お父さんは髪の毛のことは知っていたが、「息子に任せた以上、口をはさまない」と言う。

私のこの行動が娘夫婦に伝わり、もう母親は不要、と二人は結論づけたようだ。それがスペアキーの返却の意味だった。保育園や宅配の食事などを利用し、これからは私を頼らず暮らすという。

娘の住むマンションの1階に銀行のATMがある。あの日から1年ぶりに利用しに行った。順番を待っていると、日差しが反射し、背後の風景が自動ドアに映る。振り返らずとも私にははっきりわかった。ベビーカーを押す女性と2人の子どもは間違いなく娘と孫たちだ。娘は去年と同じ帽子を深く被っていた。


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