数々の賞を受賞して

石岡瑛子の勲章は数えきれない。カンヌ国際映画祭、アカデミー賞、マイルス・デイビスのアルバムのデザインでグラミー賞。エトセトラ。

アートディレクターという言葉をこの国に定着させたのも彼女だった。

一枚の写真がある。私と、石岡さんと、そして写真家の沢渡朔(さわたりはじめ)さんの三人が横一列になってソフィアの街の通りを歩いているスナップ写真だ。

その年、ある雑誌で「フォトジェニック・ロマン」というシリーズを連載することになって、その第一弾が『ソフィアの秋』という私の中篇小説になったのだった。アートディレクターは石岡さんだった。

ソフィアはブルガリアの首都である。民族衣装のような服を着た石岡さんは、まるで東欧の女性のような雰囲気でソフィアの街を闊歩している。いかにものびのびと楽しそうだ。二人にはさまれて歩いている私も、髪が黒く、表情も明るい。

その日は、たった一日だけの陣中見舞のつもりで、東京から何十時間かかけて飛んできたのだった。明日はまた飛行機に乗らなければならない。石岡さんに薄情な人だと言われたくないがために、そんな無理をしたのだった。

のちにニューヨークで『TARIKI』という本を出したときに、装丁から写真、広告のデザインまですべて石岡さんにやってもらった。

ニューヨークで出版され、米国の季刊書評誌『FORWORD MAGAZINE』のブック・オブ・ザ・イヤースピリチュアル部門ブロンズ賞を受賞した五木さんの著書『TARIKI』。装丁から写真、広告のデザインまですべて石岡さんが手がけた

そのとき会ったのが最後だった。ニューヨークで見る彼女の表情には、「ガミちゃん」の翳(かげ)はなく、仏さんのような顔をしていたのがなぜか記憶に残っている。


石岡瑛子(いしおか・えいこ) 1938年東京生まれ。東京藝術大学美術学部卒業。資生堂入社後、手がけた広告キャンペーンが話題になり、日本宣伝美術会で女性初の日宣美賞を受賞。のちに独立し石岡瑛子デザイン室を創設、グラフィックデザイナー、アートディレクターとして幅広く活動する。映画『ドラキュラ』のコスチュームデザインでアカデミー賞ほか、受賞歴多数。2012年没