筋肉はいのちに直結する

この二度の闘病生活の間、私は入院中もスクワットを行ってきました。 正確にいえば、スクワットを始めたのは悪性リンパ腫の1回目の入院生活ののち、体力の衰えを実感してからのことになります。

77~78キログラムあった体重は、がんによって一時は63キログラムまで激減しました。とりわけ筋肉が落ちて、それまでに鍛えてきたものを全部なくした感覚でした。

1983年、ボディービル「ミスター日本」で優勝した著者。当時28歳(写真:『いのちのスクワット』より)

自身の衰えに愕然とし、このままではいけないと、その後の入院生活や二度目のがんの手術前後にも、病室や無菌室で、体を動かせる機会があれば、スクワットを続けてきたのです。

2つのがんをなんとか乗り越えて、平穏な日々がようやく戻ってきました。いま振り返ると、こうして元気で生きていられるのは、第一には主治医の先生をはじめ多くの医療スタッフのかたがたの最適な治療と支援のおかげですが、これまで培ってきた体力・筋力がもうひとつの大きな要因になっていると感じます。

若い頃はボディビルダーとしても世界選手権に出ましたし、その後も体を鍛え続けてきました。その貯金(貯筋)がものをいったのでしょう。

私は半生をかけて筋肉研究に打ち込んできました。人からは、いつしか「筋肉博士」と呼ばれるようになりました。

最新の研究で、がんを移植したネズミの寿命が筋肉によって左右されるという実験があります。がんを移植したネズミは、そのままにしておけば筋肉がみるみる萎縮して死んでい きます。

しかし、筋肉を増強する薬物を与えて筋肉が減らないようにすると、ネズミの寿命は著しく延びました。つまり、がんになっても、筋肉をしっかり維持できれば長生きできる可能性があるのです。まさに筋肉はいのちに直結するというわけです。

このような研究があることも知っていたので、入院中も筋肉を少しでも落とさないようにしようというモチベーションが持続しました。 実際に、入院中に行ったスロースクワットは、まさしく私のいのちを支え続けた「いのちのスクワット」だったのです。