筋肉量は加齢とともに下降、20代に比べて60代は30%、80代は50%も減少します。筋肉量を保つことは、転倒予防はもちろん、脳や血管などの健康にもいい影響を与えます。ビートたけしさんの顔面神経麻痺の治療にあたったことでも知られる鍼灸師の劉勇さんが考案した「長生き体操」。高齢者でも無理なくできて、息が上がるような運動ではないのに、続けることで筋肉が強化できるといいます。その効果と体操のポイントをお教えしましょう(構成=村瀬素子 イラスト=谷本ヨーコ)

歩きすぎは逆効果!? 1日4000歩で十分

元気で長生きするためには運動習慣が大切――この言葉をみなさんはよく耳にするでしょう。

運動が必要な理由は、加齢とともに筋肉量が下降の一途を辿るから。20代に比べて60代は30%、80代は50%も減少。筋力が衰えると、少し歩くだけでも疲れやすく、高齢者に至っては転倒のリスクも高まります。筋肉は骨や関節を守り、歩行や体を動かすうえで重要な役割を果たすだけでなく、実は脳や血管など全身の健康に関わっているのです。

筋肉の役割の一つは、血液やリンパの循環をよくするポンプ作用。筋肉が収縮と弛緩を繰り返すことで、ポンプのように血管を押し上げて血流を促します。血管の弾力性は加齢とともに失われていきますが、継続的に運動を行うことで筋力がつけば、血管がしなやかになり血流の循環も改善。体の隅々まで血液が行きわたると、肌ツヤもよくなり、見た目も若々しくなるのです。

酸素や栄養素は血液にのって運ばれますから、内臓の働きとともに、脳も活性化。しかも筋肉を強化すると、脳の下垂体から成長ホルモンが分泌されます。これが脳への刺激となり、認知機能の向上にもつながるのです。ちなみに成長ホルモンは、新陳代謝や細胞の修復を担う重要なホルモンで、若い頃より量は減るものの生涯分泌されます。

幸い、筋肉量は鍛えればいくつになっても増やすことができるのですが、50代以降の運動はリスクを伴うのも事実です。私は鍼灸師として多くの患者さんと向き合うなかで、熱心に運動に励んできた人が膝や腰を痛めてしまうケースをたくさん見てきました。

例を挙げると、手軽にできる運動として人気のウォーキングやジョギング。「健康のために1日1万歩」などと言われますが、歩けば歩くほど膝の関節に負担がかかり、軟骨がすり減る要因に。すり減っているのに頑張り続ければ、やがて軟骨は損傷してしまう。そうなると二度と再生しません。私に言わせれば、1万歩は明らかに歩きすぎ。50代は1日5000歩、60代は4000歩、70代以上なら3000歩くらいで十分でしょう。

では、どんな運動をすれば、膝や腰などの関節に負担をかけずに筋力をつけられるのか。35年以上の臨床経験をもとに私が考案したのが「長生き体操」です。

体を曲げたり伸ばしたりすることで筋肉の柔軟性を高める「ストレッチ」と、筋肉に負荷をかけて筋肉の成長を促す「筋トレ」。2つの効果を組み合わせた体操です。筋トレといっても激しいトレーニングをするわけではありません。

「長生き体操」は、自分の体重と呼吸を活用して効率よく筋肉に負荷をかけます。目指すのはムキムキの筋肉ではなく、健康な体を維持するための筋肉の強化。加えて、血流を促し、脳と内臓を活性化させるのが、この体操の特徴です。

鍛える箇所は、まずは内臓を支える胴体のインナーマッスル(深層部の筋肉)。次に大きな筋肉が集中する下半身。特に第二の心臓と言われるふくらはぎの筋力を強くすると、全身の血流改善につながります。また、関節周りの筋肉を刺激することで、血液の循環も促せるのです。