古代中国の不倫事情

夫婦関係が壊れる一因として浮気もある。

著書の『古代中国の24時間』で詳しくのべたとおり、当時は男女問わずナンパをすることがあり、相手が既婚か否かは二の次であるため、結果的に浮気も生じやすい。とくに遊び人の夫や彼氏は問題である。

子を生んだ妻をほうっておき、新たにべつの女とねんごろになる夫もおり、妻はいらだちを隠せない。彼女は、それでも不誠実な夫を「君(くん)」(あなた)とよび、夫の男性親族を「兄(けい)」(お義兄さん)とよびつづけねばならぬことに疑問を感じはじめている*12

なかには包容力のある女性もいる。

ある女性は、早朝から機織をしていたところ、夫が朝帰りをしたが、あらためて浮気夫のためにご飯を準備し、今後も仲よく過ごそうといったとか*13。だが、これほどの女性はめったにおらず、じっさいには「妓楼の女と浮気男の妻はどちらが幸せか」などと煩悶する女性のほうが多かったようである*14

もちろん、女性のほうが間男をひきいれることもあった*15。ふたりの男性がひとりの女性をめぐってケンカし、傷害事件におよぶこともある*16。じっさいに漢代には、人妻と関係をもった男が夫に顔を斬りつけられるという事件が起こっている*17

このほかに、人妻を寝取ったのがじつはヘビの神で、のちに夫に殺されたとの伝承もあり*18、もはや邪神が怖いのか、人間が怖いのかわからない。また夫や、夫の父母の葬式中に、その棺のそばで夫以外の男性と関係をもった女性などもいたが、ともかく不貞は法律上、現行犯のみ有罪とされたらしく、不貞をした側はけんめいに否認している*19

じつは近年の研究によると、不倫をするか否かはその人のもつ遺伝子に左右されるため、どれほど善悪を強調し、罰則を強めようとも、その根絶はムリである*20。つまり不倫は、たんに正義や倫理の問題としては処理しきれないのである。