生存は椅子取りゲームではない
小林 生活保護も同じですね。担当者によっては窓口で簡単に追い返したりする。たまたま目の前に座った職員の判断で生き死にを決められてしまうロシアンルーレット状態なのはおかしい。頑張っているから助けるとか、真面目にやらないから許可しないとか、職員の価値基準や好き嫌いが入ってしまうぐらいならAIが判断を下したほうが公正です。
中島 小林さんたちのご活躍を見て、私はこの国ではいかに人権が軽んじられているかが可視化されたと思いました。
小林 人権のある人とない人に区分けされているような現状はおかしいです。生存は椅子取りゲームじゃありません。
中島 ところで実際に路上生活で困っている方を見かけたとき、何か力になりたいと思ったらどうすればいいのでしょうか。
小林 何年も路上生活をしている方たちは地域の支援者が把握しています。ただ女性は危険にさらされやすいので、「どこそこにいる女性が気になる」と福祉事務所に保護を求めてもいいかもしれません。また、お店で何か買ってきて「召し上がりますか」と聞いてみるとか。断られたらそれでもいい。気にかけている人がいると周囲に見せることが、暴力の牽制にもなります。孤立させてしまうのが一番危険なんです。ただ、人との接触を怖がる人もいらっしゃいますから、そのへんは加減しながら。
中島 昨年、都内のバス停で路上生活をしていた60代の女性が、男性にいきなり殴られて亡くなられました。こんな痛ましい事件も、もしかしたら未然に防ぐことができたのかもしれません。
小林 はい。全員と仲良くしよう、というわけではない。相手の存在を認めて、私がここにいて生きていいのと同じだけの権利を相手にも認めよう、ということです。
中島 差別を根絶するのは簡単ではないけれど、みんなが価値観の転換をして大きな運動を起こさなければいけないと思います。コロナ禍の痛みを経て、少しはその芽が出てきていると信じたいですね。