「クマがひどいですね、先生」
たぶんあちらから入るのだろうという明かりのついた扉があり、警備員室のようなところで名前を書いた。
「どこどこの前のソファで待っててください」
と言われたが、「ソファ」の部分しか聞き取れなかった。
しばらく待ち、そのうち名前が呼ばれ、どうしましたか?と優しそうな女性の看護師さんに問われた。
「え〜と、なんだか〜」と更にぼーっとしていると、看護師さんが医師に
「クマがひどいですね、先生」と言い始めたので、咄嗟にわたしは
「それは昨日のメイクを落としてないからです、クマではないのです」と言った。
随分しっかりと伝えることができた。
看護師さんが小声で「落ちていないアイラインですね」と確かに言った。
そのあとベッドに横になり、血液検査とPCR検査をしましょうとなり、両鼻に入れるPCRがあまりに痛くて、具合が悪いというのに飛び起きた。
「自分でやりますから!」と先生を制し、できるだけ奥に入れたがオッケーが出ず、結局白衣のイケメン医師がわたしの鼻の奥まで綿棒を差し込み5秒ぐりぐりと回し、顔色一つかえず、カーテンをあけて出て行った。