子どもを産み育てる年齢の若い男女がもっとも希望を持ちにくい社会に
先進諸国の出生率はどの国でも軒並み下がっていますが、相対的に高位国と中位国、低位国に分けることができます。
イタリア、ドイツ、日本は低位国です。この3つの国は、第二次世界大戦時の枢軸同盟国で、共通点はマッチョ社会ですね。こういう社会では、子どもが生まれないことがデータからわかります。
アジアはどうでしょうか。アジア圏は全般に出生率が低いです。シンガポールや香港のキャリアウーマンは両立問題に悩まずにすむといいましたけれど、そういう女性の層自体が薄いので、出生率はやはり上がりません。
日本と似ていて極端に出生率が低いのは韓国です。韓国の社会構造は日本とよく似ていますし、男女賃金格差も日本より大きいです。
中国の出生率は「ひとりっ子政策」のせいで政治的にコントロールされてきましたから、国際比較の対象になりませんが、最近、中国政府は政策を転換して3人まで産んでもよい、としました。それでも出生率が上がる傾向は今のところ見られません。今後の変化はどうなるでしょうか。
人口現象とは、ひとりひとりの再生産年齢の男女が、個人的に選択する行為の結果が集合現象を生むという社会現象です。しかも、もっとも予測が容易な現象なのに、なぜそうなるかは説明できないというおもしろい現象です。
もし出生率というものを、子どもを産み育てる年齢の男女の将来に対する希望の指標だと考えれば、出生率の低い「男性稼ぎ主型」の社会は、子どもを産み育てる年齢の若い男女がもっとも希望を持ちにくい社会だ、といえるかもしれません。
※本稿は、『最後の講義完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ 安心して弱者になれる社会を作りたい』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
『最後の講義完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ 安心して弱者になれる社会を作りたい』(著:上野千鶴子、NHKグローバルメディアサービス 、テレビマンユニオン/主婦の友社)
「あなたは人生最後の日に何を語りますか」という問いに答え、各界著名人が1度きりの特別講義をするNHKの人気番組「最後の講義」。本書は社会学者・上野千鶴子さんによる回のテレビ未放映部分を含んだ完全版。家事が不払い労働であること、家事、育児、介護、看護がすべて一人の女性の負担になってきたことなど、女性の幸せのために研究してきた上野さんの歴史、そして考えるべき女性学・ジェンダー学の問題点がここに!