筆者の関容子さん(左)と

イッセーさんの主演映画でとても好きなのは、市川準監督、宮沢りえ共演の『トニー滝谷』(2004年)と、昭和天皇役が傑作だった『太陽』(05年)。こちらはロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督。

とりわけトニー滝谷が、亡妻のことを「あいつが……」という言い方をする男とパーティで会い、「あいつって言うな」と言って、すっとその場を離れるシーンに寂寥感が漂って、とってもよかった。

 

――あ、嬉しい。そこだけ褒めてくれてたの、市川さんが。宮沢さんが、ドレスや靴でいっぱいの部屋でしみじみ泣くシーンがあるんだけど、あそこに匹敵するくらいよかった、と言われて、すごく嬉しかった。

あれは市川さんにとって、特別な映画だったらしくて、カメラがレールの上をジーッと動いてきたり止まったりする。そういう撮り方で、だからあざとい演技がバレちゃうんですね。どうしたらいいかわからなかったけど、それがいいんだよ、って言われましたね。

『太陽』のほうは、完成する十年くらい前に、陛下のいでたちをした写真を送ってくれ、と言われて、顔にテープ貼ったりして作りました。もともと僕は外側から作っていくのが好きなタイプですから。他の役者さんにも声がかかってると思うけど、すっかり忘れたころに話が決まって、全部ロシアで撮りました。

だいたい順撮りで、陛下がご飯食べてるところから静かに始まって、次の日は悪夢にうなされてるシーン。それをメイクのおばちゃんが監督と同じ視線で現場に立ち会っていて、監督も喜んでくれたし、メイクさんは抱きついて素晴らしかった、って言ってくれた。そのとき、やっぱりここに賭けよう、このサンクトペテルブルクの撮影所に自分を溶け込ませようと思いましたね。