芸人を引退した自分に残ったのは

もし、小説を書いていなかったら…もっと不安なものや面倒くさい感染症としてコロナを捉えていたかも。
小説を書かなかった自分のコロナ禍の過ごし方は、あまり想像ができないですね。

小説を書くのは今回が初めてでしたが、脚本を書くのとは勝手が全く違って難しかったです。
僕が脚本を書き始めたのは、吉本興業に入って1年目の時、劇場に来ていた社員の方に「お前は長いものを書くほうが合っていると思う。2時間くらいの長さのものを書いてみな」と言われたのがきっかけ。

2年目から、長い脚本をやる場を設けてもらい、経験を積ませてもらいました。それまでは何か物を書きたいなんて、考えたこともありませんでしたね。芸人になろうと思ったのも、楽にお金が稼げて、モテるかなと思ったから(笑)。

でも、2011年にカリカというコンビを解消して、芸人を引退することになった時、僕に残ったのは「物語を書く」ことだけでした。

以来、脚本家としてさまざまなドラマや舞台の脚本を書かせてもらいました。だから、僕は「会話」を作ることはできるんですが、小説に必要な描写していくという作業は初めてで、これに苦労しました。

それでもなんとか書ききることができたのは、担当編集の方が締め切りを決めずに、他の仕事が入ったら2ヵ月ストップするなど、とにかく待ってくれたから。もし締め切りがきっちり決まっていてプレッシャーを感じていたら、途中でギブアップしていたかもしれません。

また、2年かけて書いたために、コロナのいろいろなフェーズの出来事を小説に反映することもできました。2021年の夏に自分がワクチンを打って経験したことは、もし1年で書き上げていたら入れることができませんでしたから。