正解はないけれど

コロナがどこからやってきて、どういう対策を取るのが一番有効なのか――さまざまな議論があるけれど、おそらくその答えは、未来から振り返った時にしか出ない気がしていています。

じゃあ今、僕にできるのは何かというと、起こった出来事を物語として記録しておくことじゃないか、と。

例えば2020年の春頃には、お化け屋敷で人に触っていけないとか、ジェットコースターで叫んではいけないといったニュースがたくさんあったのですが、そうした出来事を未来や別の世界線から見たらどう映るのか?

コロナ後の未来を想像した時に、いろいろなバリエーションが頭に浮かんできました。コロナ禍が収束する未来、全然終わらない未来、コロナよりも脅威となるウイルスが出てきた未来、コロナがあってよかったという結論に至っている未来――。

そうしたたくさんの「世界線」から振り返った時、このコロナ禍というものはどう見えるのか。それが今回の小説のコンセプトになっています。タイトルもコロナ禍を振り返るということで、『あの頃な』としました。

僕は星新一さんの書くショートショートの世界が好きで、小説にもその影響が色濃くでているように感じます。

でも、帯に「ショートショート」と書いてあるのは自分ではちょっとおこがましいかな、と思ってるんですが。

それから、僕は山本周五郎さんも好きで。山本さんのうだつのあがらない男が最後に報われる…という小説をイメージして、「世界一のギタリスト」という短編を書きました。その登場人物の名前は「周五郎」。僕が好きな作品へのオマージュがいくつかちりばめられているので、気づいてもらえたら嬉しいです。

まだコロナ禍は続いていますし、いまだに何が真実で、何が正解かわからないことだらけです。

この作品集は読んだ方が感動して、何か気づきを得るというものではないんですが、こんな視点でコロナを見ると、こういう考え方もできるんじゃないか?というサンプルが集められている。

正解はないけれど、いろいろな考え方があるのだということがシンプルに伝わればいいなと思っています。