『ぼけますから、よろしくお願いします。おかえりお母さん』(著:信友直子/新潮社)

聞かれもしないのに言い訳を

母も私に疑われていることを敏感に察したのでしょう。聞かれもしないのに言い訳
をすることが増えてきました。

「ああ、この間はお母さんもう眠たかったけん、あんたの話をよう聞いとらんかったかもしれんわ。悪かったねえ」

そう、今思えば、母はずいぶん前から自分の異変に気づいていて、それを必死で私に隠そうとしていたのではないでしょうか。そこには「主婦の鑑(かがみ)」であらねば、というプライドもあったでしょうし、娘に心配をかけたくないという親心も大きかったはずです。

母は一体どうなっているんだろう。

私は、恐る恐る実家に帰ってみることにしました。