ちょっと早く連れて行きすぎたな
父も同じことを感じていたようです。
「ありゃあ、予習して行ったに違いないわ。なんやら本を読みながら、ブツブツ勉強しよったけんの」
何をしているのか確認はしなかったそうですが、父いわく認知症の問診テストの予習だったのではないかと。
いずれにしろ診察室の母は、体が火照るのがそばにいる私にもわかるくらい集中して挑みました。その結果、ほとんどの問題に正解し、30点満点のテストで見事29点を獲得したのでした。そして検査したお医者様から、
「そのお年にしては立派なもんですねえ」
と褒めてもらって得意満面でした。
当然、認知症の診断は下りず、喜んだ母はそれからしばらく友人たちに吹聴して回ったようです。
「娘が心配するけん、ぼけとらんか検査したんじゃけど、30点満点で29点取ったわ!1問だけ間違えたんが悔しゅうてねえ」
ちょっと早く連れて行きすぎたな。
私は反省しましたが、母には大きな自信になったようです。数か月後にはこの記憶すら失うわけですが、わずかな期間でも母が安心して過ごせたならよかったのかな、と今は思います。