『老いを愛づる-生命誌からのメッセージ』(著:中村桂子/中公新書ラクレ)

「次につなげる係になったのだ」と足し算の気持ちで

先生たちは皆さん、自分が好きなこと、大事と思うことを持っていらして、それを楽しそうに話し、やって見せて下さいました。

中学一年生の時の担任は、島崎藤村に命をかけた先生で、意味がよくわからないまま皆で「初恋」を暗唱したものです。今も、「まだあげ初(そ)めし前髪の……」と始まる詩を宙(そら)で言えます。

流行だからとか、高く評価されそうだからとかいうのではなく、自分が大事と思うことを大切にするという考え方が骨の髄まで染み込んでいるのは、先生方の影響です。

最近、いろいろ教えていただいたことを子どもや孫の世代の人たちに伝えていくのが、私の役目かなと思い始めました。これがつながる、つなげるという生きものの基本かなと。

引き算によって残ってしまった、一人になったと思うのでなく、これまでの人たちが積み上げて下さったよいところを次につなげる係になったのだと思うと、新しい足し算の気持ちが生まれてきます。

これまで大事にしてきたのは、どんなに辛いと思う時にも、小さなことでいいから何かよいところを見つけることです。それは得意かなと思っていますし、そう思うと、自分自身も《これでいいのだ》と少し自信が出てくるので、楽です。