「殿下のおごり」という、日本では成立しないエピソード

ちなみにこの見学会は、「謎の豪華土産」が出ることでも有名だった。年によってゴドルフィンのマークが入った本革のビジネスバッグとか、だいぶ高い腕時計とかが配られたのを覚えている。

モノが貰えるからうれしいというわけではなく、なんというか、「金持ちがアホみたいに大盤振る舞いする」という様子が、昔のドバイでは面白かったのである。

『世界の中心で馬に賭ける-海外競馬放浪記』(著:須田鷹雄/中央公論新社)

例えば1997年のドバイワールドカップは大雨で順延になったが、延泊して取材したあとホテルをチェックアウトしたら、「延泊分は殿下のおごりなので要りません」と、取られなかった。当初のレース日に雨でずぶ濡れになりホテルに出したクリーニング代も殿下のおごりだった。

これも金額がどうこうではなく、「殿下のおごり」という、日本では成立しないエピソードを獲得できるのが面白かったのだ。

建設中だったころのメイダン競馬場(写真:『世界の中心で馬に賭ける-海外競馬放浪記』より)

もうちょっと後の年になって、メイダン競馬場の建設が発表されたイベントにおいても、なかなかの大盤振る舞いが行われた。

発表会に参加した数百人の人々には、「建設予定競馬場のイメージ動画DVD」が配布された……ここまでは分かる。そしてDVDだけでなく、DVDプレイヤーも全員にプレゼントされたのである。意味分からん。

「動画DVDを配布してみんなに見てもらおう」、これは誰でもできる発想。「ただ、再生できる機器持っていない人もいるだろうから、プレイヤーもプレゼントしちゃおう」、これは常人ではできない、金持ち主催者ならではの発想。