次々と食品から見つかる睡眠促進効果

睡眠が健康に大きな影響を及ぼすことはよく知られているものの、どんな睡眠が良い睡眠なのかを客観的に評価するのは難しいものです。不眠に悩んでいる人にとっては、質の良い睡眠をいかに手に入れるかは大きな課題です。 

ヒトの睡眠では、睡眠時間の約80%をノンレム睡眠が、約20%をレム睡眠が占め、このバランスが睡眠の質と関わっているようです。認知症やうつ病などの疾患では、バランスの異常が観察されています。

睡眠薬を飲むと睡眠時間が増えるものの、レム睡眠とノンレム睡眠のバランスの調節は難しいこともあり、睡眠の質が良くないと感じることがあります。そこで睡眠を改善する効果のある睡眠サプリメントが注目されています。

カフェインがアデノシン受容体に結合して不活化させるなら、その逆もあるはずです。アデノシン受容体を活性化させる物質がみつかれば、睡眠促進効果があるかもしれないとあるメーカーが約80種類の食品をスクリーニングしました。

そしてみつかったのは、なんと日本酒づくりに使われる清酒酵母(6号酵母)でした。その後、睡眠改善効果があることが示され、製品化されています。 

アミノ酸のグリシンやセリンも睡眠改善効果があるとして、製品化されています。グリシンは、偶然その効果がみつかりました。

グリシンを摂取すると、グリシンは脳の視交叉上核という体内時計の中枢として知られる部分に到達します。そこでの作用を介して、末梢血流が増加し熱の放散を促します。すると、睡眠と関係の深い深部体温が低下して睡眠の質が向上すると考えられています。

深部体温は、体の内部の体温のことであり、眠くなると低下することが知られています。

そのほか、食品から睡眠改善効果がある成分がみつかっているので、今後もサプリメントなどに応用されるかもしれません。

ただ、睡眠は主観的なものなので、その効果を検討するのは難しいものです。よく眠れないと思ったら、サプリメントに頼らず医師に相談したり、生活全般を見直したりすることも重要です。

※本稿は、『本当に役立つ栄養学―肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(講談社)の一部を再編集したものです。


本当に役立つ栄養学―肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(著:佐藤成美/講談社)

体にいい、悪いで語られがちな食べものについて、多くの人がわかっているようでわかっていないという実態を感じて、現在わかっている食の科学を理解し、正しい情報の受け取り方ができるようにという思いで執筆した1冊。栄養学的な面と、複雑な体の代謝のしくみをなるべくやさしい言葉で解説します。食品によっては、時代的背景も関係していたり、健康ブームの空気にのって「良い食べもの」になっているものも。食と代謝はまだまだ解明されていないことも多いのですが、わかっていることをクリアにしながら、誤った認識に陥らない方向を示します。