「純文学作家が大衆小説を書いたり、それまで国内にはなかったハードボイルド小説を書いたり、今ではわりと当たり前になってきたことも、石原さんが先駆けになって実践したことがたくさんある」(豊崎さん)撮影:川上尚見

トンネルを掘り進める役

豊崎 三島さんは、ちょっと悪ぶったイメージをあえてまとおうとしていた印象がありますが、石原さんの場合、自然と、アウトサイダーと呼ばれるような人たちとなじみがあるように見えます。

石原 だって、僕自身がアウトサイダーだもの。こんなに不遇な作家って、いないでしょ。(笑)

栗原 文壇にはあまり厚遇されていなかったみたいだなあという印象は、調べていてありました(笑)。スター作家の先駆けということで、作家の芸能人化を憂える論調も当時は多かったですよね。映画のほうでも、『若い獣』映画化のときに助監督連合からボイコットを食らったり。

豊崎 純文学作家が大衆小説を書いたり、それまで国内にはなかったハードボイルド小説を書いたり、今ではわりと当たり前になってきたことも、石原さんが先駆けになって実践したことがたくさんあります。

石原 トンネルの掘削機ってあるでしょ。僕はいつもあの掘削機の銛先になって、トンネルを掘っていく役。それで道が通って、太平洋と日本海の風が出合うようになる。それなのに、開通式のテープカットにはなぜか呼ばれないんだ。(笑)

石原慎太郎さんお別れの会 作家と政治家をやりきった半生「政治の世界にいながら文学をやる。文壇から疎まれていたからこそ、芥川賞はフェアな賞であり続けてほしい」〈後編〉に続く