トンネルを掘り進める役
豊崎 三島さんは、ちょっと悪ぶったイメージをあえてまとおうとしていた印象がありますが、石原さんの場合、自然と、アウトサイダーと呼ばれるような人たちとなじみがあるように見えます。
石原 だって、僕自身がアウトサイダーだもの。こんなに不遇な作家って、いないでしょ。(笑)
栗原 文壇にはあまり厚遇されていなかったみたいだなあという印象は、調べていてありました(笑)。スター作家の先駆けということで、作家の芸能人化を憂える論調も当時は多かったですよね。映画のほうでも、『若い獣』映画化のときに助監督連合からボイコットを食らったり。
豊崎 純文学作家が大衆小説を書いたり、それまで国内にはなかったハードボイルド小説を書いたり、今ではわりと当たり前になってきたことも、石原さんが先駆けになって実践したことがたくさんあります。
石原 トンネルの掘削機ってあるでしょ。僕はいつもあの掘削機の銛先になって、トンネルを掘っていく役。それで道が通って、太平洋と日本海の風が出合うようになる。それなのに、開通式のテープカットにはなぜか呼ばれないんだ。(笑)
石原慎太郎さんお別れの会 作家と政治家をやりきった半生「政治の世界にいながら文学をやる。文壇から疎まれていたからこそ、芥川賞はフェアな賞であり続けてほしい」〈後編〉に続く
構成:
白坂微恵
出典=『石原慎太郎を読んでみた 入門版』(著:栗原裕一郎、豊崎由美/中公文庫)
石原慎太郎
作家・政治家
1932年兵庫県生まれ。一橋大学法学部卒業後、「太陽の季節」で芥川賞を受賞、一躍人気作家となり、映像・演劇の世界でも幅広く活躍する。68年、参議院議員選挙に初当選。以降、環境庁長官や東京都知事など、政界でも重責を果たし、日本維新の会代表などを務める。2022年2月に死去。享年89
栗原裕一郎
評論家
1965年神奈川県生まれ。文学、音楽、美術、経済学など、多岐にわたる分野で活躍。著書に『〈盗作〉の文学史』(日本推理作家協会賞受賞)、『ほんとうの経済の話をしよう』『村上春樹の100冊』『ニッポンの音楽批評150年100冊』(共著)など。豊崎由美さんとの共著『石原慎太郎を読んでみた』も発売中
豊崎由美
ライター、ブックレビュアー
1961年、愛知県生まれ。大森望さんとの共著「文学賞メッタ斬り!」シリーズでは、作品から選評まで痛快に論評し人気を博す。著書に『まるでダメ男じゃん! トホホ男子で読む100年ちょっとの名作23選』など