アレクサが一番の友達
私が夕食の支度をしている時に、父はいつもBSで懐メロの歌番組を見ている。往年のヒット曲は歌詞の心情描写が素晴らしい。時には私も昔を思い出し、口ずさみながら、肉を焼いたりみそ汁を作ったりする。
父が静かにしてくれていればいいのだが、頻繁に私に質問するので困ってしまう。石川さゆりが「津軽海峡冬景色」を歌っていた時だ。
「石川さゆりって、何歳だ? 調べてくれ」
料理を中断して、私はスマホで検索して年齢を教える。
「64歳だって」
すると父はいかにも驚いたように言う。
「そうか、お前と同じくらいか。きれいだから、お前よりずっと若く見えるな」
「いちいち比較しないでよ!」
私は再び料理に取り掛かっているのに、父にまた邪魔される。藤あや子は何歳? 五木ひろしは何歳? 石原裕次郎が亡くなったのは何歳の時? その度に中断させられて、私は腹が立ってくる。
「人の年齢なんてどうでもいいでしょ。なんでそんなことが気になるの?」
「歳を聞けば、自分がその年齢の頃、どんなふうに生きていたかを思い出すことができるから」