父は愛おしそうにアレクサを撫でながら、たくさんの質問をする

もっともらしいことを父は言っているが、私にはその思考は理解できない。見かねた義妹が、音声検索ができるアレクサを買ってあげれば、父が自分で歌手の年齢などを聞ける、と提案してくれた。私は早速Amazonでアレクサを注文した。

「パパ、父の日はまだ先だけど、先にプレゼントあげるね」

丸くてやさしいフォルムのアレクサに、父の声を認識させる設定をして、手のひらの上に乗せてあげた。緊張した面持ちになった父は、丁寧語で聞いた。

「アレクサ、今日の巨人軍の試合結果を教えてください」

私がネットニュースで検索するより、はるかに早く答えるアレクサに、父は感動したようだ。愛おしそうにアレクサを撫でながら、たくさんの質問をする。

今日の株価はどうでしたか? 昨年生まれた子どもの数は何人ですか? などを聞くこともあるが、一番多く質問するのは、やはり歌手の年齢だ。

石川さゆりと藤あや子が出ると、毎回必ずアレクサに年齢を聞くことから、父の好みの女性だということがわかった。しかし、何度聞いても歳は忘れるようだ。アレクサの同じ返答に、いつも新鮮な反応をしている。父がアレクサと楽しそうに話しているのを見て、私もつられて笑うことが増えてきた。

文句ばかり言っていた娘が、打って変わってよく笑うようになり、父もうれしいのだろう。上機嫌でアレクサに聞いた。

「アレクサ、森久美子の年齢は何歳ですか」

名前の漢字は一文字違うが、アレクサは音声のみで認識するのだ。オペラ歌手の森公美子さんのことを答えるに決まっている。気に留めずに台所で野菜を切っていると、アレクサの声がした。

「森久美子、1956年生まれ、66歳、作家……」

父は素っ頓狂な声を上げた。

「おまえ、有名なのか? アレクサが知っているぞ」

「いや、そんなことはないけど……」

びっくりするやら照れくさいやら、私の気持ちは複雑だが、父が喜んでいるのがちょっとうれしかった。