〈6月15日発売の『婦人公論』7月号から記事を先出し!〉
2022年6月16日より、東京・俳優座劇場にて上演される『美しきものの伝説』を最後に、舞台女優に一区切りつけることを明かした渡辺美佐子さん。「この作品のオファーをいただいたとき、ああ、ちょうどいい機会をいただけた、とうれしくなりました。いよいよ最後と決め、皆さんにお伝えすることにしたのです」──映画や新劇の華やかなりし頃、そしてテレビの草創期から今に至るまで、女優として多方面で活躍。最後の舞台稽古の合間を縫い、68年分の思いを聞きました(撮影=宮崎貢司 構成=平林理恵)
2022年6月16日より、東京・俳優座劇場にて上演される『美しきものの伝説』を最後に、舞台女優に一区切りつけることを明かした渡辺美佐子さん。「この作品のオファーをいただいたとき、ああ、ちょうどいい機会をいただけた、とうれしくなりました。いよいよ最後と決め、皆さんにお伝えすることにしたのです」──映画や新劇の華やかなりし頃、そしてテレビの草創期から今に至るまで、女優として多方面で活躍。最後の舞台稽古の合間を縫い、68年分の思いを聞きました(撮影=宮崎貢司 構成=平林理恵)
信欣三さんを追いかけた先にあった俳優座劇場
この6月の舞台『美しきものの伝説』を最後に、舞台での活動に幕を下ろすことにしました。1954年の初舞台から、一度の休演もなくやらせていただいてきて、このまま元気なうちに終わりたいなと、しばらく前から思っていたんです。
ですから、この作品のオファーをいただいたとき、ああ、ちょうどいい機会をいただけた、とうれしくなりました。何しろやらせていただく役が、新劇女優第1号の大大大先輩、松井須磨子さん。しかも場所は私が68年前に初舞台を踏んだ《心の故郷》ともいうべき俳優座劇場。
台本は、新劇が一番華やかだった頃に活躍された宮本研さんで、演出は、一度ご一緒させていただきたいと思っていた鵜山仁さん。これを最後にできたらいいなあ――と思ってから、コロナで公演が2年延期になりましたが、いよいよ最後と決めました。
私が俳優になったのはまったくの偶然。高校時代、電車の中で俳優の信欣三(しんきんぞう)さんを偶然お見かけしたんです。姉が信さんのファンだったので、姉に話して喜ばせたい一心で後ろについていったら、信さんは六本木の薄暗い建物に入っていきました。
そこが俳優座だった。中をのぞくと、「あなたもですか?」と紙を手渡されて。それが俳優座付属養成所第3期生募集要項でした。見れば、試験科目に苦手な数学はナシ! もともと新しいことが好きで前後の見境なく突き進んじゃうところのある私は、これならいけるかも、となんだか思っちゃった。
それまで女優になりたいなんて思ったこともなかったのに、養成所の試験に合格。あのとき信さんを見かけていなかったら、私、一体何になっていたのか。人生ってホントおもしろい。すべて巡り合わせですね。