新劇は一番華やかな頃だったし、映画はもっとも元気な時代、テレビは草創期の活気にあふれ、それぞれのいい時期にお仕事をすることができました

舞台で松井須磨子さんの存在感が出せたら

『美しきものの伝説』という作品は、大正時代に自由の夢を追い求め、闘った人たちの物語。「ベル・エポック」と言われますが、けっしてのどかな美しい時代ではなく、着々と戦争への準備が進む苛酷な時代でした。

登場するのは、当時を生きた大杉栄さん、伊藤野枝さん、平塚らいてうさん……。実在した人物の20代を演じるのは、新劇の若い俳優さんばかり。

もちろん、私の演じる松井須磨子さんも同世代なので、申し訳ないことにもうすぐ90歳になる私がそこに入って、若い方とね、ラブシーンもあるんですよ。もう相手の俳優さんに、「やりにくいわよね、ごめんなさいね」と謝るしかないです。(笑)

群像劇なので、私の出番自体は少ないのですが、その中で松井須磨子さんの存在感が出せたらいいなと思います。松井須磨子さん、改めて思います。やっぱりすごい方ですよ。

長野の田舎町から東京に出てきて、女優という仕事に就いて、演じた役が『人形の家』のノラ、『復活』のカチューシャ。カルメンもなさいましたね。女が虐げられていた時代に、人間としての自由を求め、束縛から放たれたいという思いを全身で表現された。

それまでの日本の芝居に出てくる女性は、恋をして捨てられて泣き崩れるといった描かれ方が多かったんです。ところが松井さんが演じる役は違う。当時のお客さんにしてみれば、ことに女性にとっては夢のような生き方でしょう。

そんな役柄の生き方への憧れが、松井須磨子さん自身にも投影されたのではないか。だから私も、自由を求める新しい女としてドーンと舞台に立てたらいいなと思います。